糖尿病治療薬「アクトス」発がん性疑いの問題

糖尿病の治療に使われる「アクトス」というお薬ですが、「インスリン抵抗性改善薬」という種類のお薬で、これを飲むことで「インスリンの効果を高める」というような作用を発揮して血糖を下げるというはたらきがあります。

以前より普通の糖尿病のお薬に追加する(併用する)ことで血糖が下がるという現象は非常に多く経験しておりまして、経験的にもこのお薬は比較的「効果の見えやすい」薬ではあるかと個人的には感じております。

なので、血糖がなかなか下がっていかないようなケースでは、私も結構ぱっぱとこの「アクトス」を追加することが多かったように思います。


ところが近日のことですが、「アクトスに膀胱がんの発生の危険性指摘」というニュースが飛び込んできました。


アクトスという薬、心臓への悪影響が懸念されるということはよく言われて来ましたし、それについては多くのお医者さんも知っていると思いますが、発がん性という件に関しましてはそこまで多くのお医者さんが共通認識として持っているとはちょっと思えません。

しかしながらこのお薬が発売される前から発がん性そのものは指摘されていたらしいです。「らしい」というのは私個人は勉強不足で知らなかったもので・・・。

またオンブズマンなど第三者機関によるその点の指摘も、もうはや2000年の段階でなされていました。


なので今回のこの話はぽっと出たものではなく、もう10年以上も前からくすぶり続けていた問題ということになります。


それと少し気になったのは、「男性と女性で差がある」という点で、動物実験段階の結果でも「メスには見られなかった」とされており、今回ニュースになっているもののベースの調査にても女性での有意な発がん性の上昇は結局「認められない」という結論のように思えます。


なのでおおまかに現段階でのこの問題の要点を言うと、



アクトスを服用している『男性』で、膀胱がんの発生が明らかに増える可能性がある」



ということになるのかと思います。



タミフルの時もそうでしたが、今後厚生労働省が正式なアナウンスを出すのだろうと思われます。しかしおそらくははっきりとした結論が出ないのではないかと思っています。


なにしろ今問題になっているように一見見えますが水面下では先に述べたように「10年前から」議論されてきた話なのでかんたんな問題ならすでに結論は出ているのではないかと思うからです。


ただ、「発がん性」という点においてこの問題をどう捉え、そして実際に服用している患者さまにどう伝え、どういう対応をとっていくかは今後医院ごとに違うのでしょうが、とても難しい問題かと思います。


いずれにせよ私自身の判断では、「疑わしきを罰する」というスタンスが安全かと考えております。


原発の問題ともある意味似ているのではないでしょうか。人の命がかかわる問題に関し、「わずか」ではあっても危険性がある以上、その「危険の質」によっては必要以上に慎重にならねばならないケースもあると思います。


最終的に判断なさるのは患者さまとはいえ、医療従事者側は「だいじょうぶだろう」という無責任なスタンス「のみ」で対応するというのは許されないのではないかと思います。


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※11年6月18日、以下補足します

記事などをよく読むと、アクトスにつきましてはドイツで、

「・・・保険償還中止」

とあります。これは意外と早いことで、去年の11月のことです。


この「保険償還中止」とは、単に「保険適応外」という意味とは若干異なるように思います。適応外なら適応外という言葉が使われるはずですので。

「保険償還」とは、医療費を「まずは10割全額を窓口で負担し」→「後で自己負担以外のお金を国保などの保険者に請求する」ということです。


しかしこれは非常に妙なことで、通常の診療でのお薬の処方において、こんな面倒くさいことをすることなど「皆無」に近いです。大体はしっかりと「窓口で自己負担(3割など)を支払う」というただそれだけのことで終わりでしょう。


なので、ドイツにおいてはもうアクトスは、「通常の保険適応診療として扱われていない」ということなのです。


結論からいえば、「保険適応外」ということでいいと思います。


また、http://www.npojip.org/sokuho/no142-16.pdf に詳しく書かれていますが、この少し前の段階でのドイツでの「保険適応外」決定の根拠となっているのは、なんと

「発がん性において『ではない』」

という点にも注目すべきです。


根拠は上にも書いた、多くの医師が共通認識として持つ、


「心臓毒性」


なのだということです。


発がん性においてかなりあいまいなコンセンサスも、「心臓毒性」という点においては日常診療に携わる者としてはかなり現実的なものとして捉えざるを得ないというのが正直なところです。



そう考えますと、「アクトス問題」、個人的には非常に深刻です。