CTなんて1週間毎日撮ったって大丈夫!ってことなの? そんなのおかしいでしょう。
しばらく更新が滞っていました。最近は仕事が忙しくてどうにもなりません。
しかし世間は待ったなしで動いていきますね。震災から一年になろうとしていますが問題は未だに山積です。
特にこの一年、私が医師として最も頭を悩ませてきたのが「放射能」の問題です。
「医師として」と言うとなんだか当たらないのかもしれません。私の原子力・放射線医学の知識など所謂専門家の先生方に比すればどれほどのものでもありません。しかし「所謂専門家」の先生方の言い、世に発信しているご説を拝見いたしますとその多くが今の私には納得のいかないことが多いのです。
私のような医師でも研修医時代には先輩先生方からいろいろ教え込まれたものです。
レントゲン検査をする時には妊娠の有無を必ず確認せよ! というのはもうその頃には「鉄則」のように言われていたことです。それと同じように、お子さんに放射線をかける(検査をする)時には生殖器など防護すべきは防護せよ! とも言われました。
レントゲン検査は1枚で50〜100マイクロシーベルト程の被曝があると言われます。
実際にうちの診療所のレントゲンの機械で患者さんの立つ位置に線量計を置いて測ると、レントゲンの撮影ボタンを押した瞬間に数字が100まで跳ね上がります。その線量計も、普段家などに置いてある状況では0.07マイクロシーベルト(1時間)という値を示しています。
実際には道東、北見近辺の空間の放射線の強さは0.03マイクロシーベルトくらいです。
若干の影響があるにしても福島の原発からの距離や地形などを考えますと道東では原発事故以前とほとんど変わらない放射能の環境が維持されていると言えるのではないでしょうか。
しかし福島や関東近県の測定値を見ると北見の10倍(それでも0.3マイクロシーベルト毎時)くらいある場所があります。飯舘村のようなすごいところですと0.3どころか北見の100倍!(3マイクロシーベルト毎時)という場所すらあるようです。
仮に「3マイクロ」ということならば、そこに30〜40時間いればもうレントゲン写真を1枚撮ったのと同じ被曝になるということです。
そこで考えるのですが、
「2〜3日そこにいただけでレントゲン写真を1枚撮るのと同じ」
という場所があるとして、じゃあそれならば。
うるさく僕に基本を教え込んだ先輩医師たちが正しいのならば、そういう場所では当然、
「妊婦さんはいませんよね?」
「子供はみな放射線防護用の鉛ベストを毎日腰に巻いて生活してますよね?」
・・・
どうでしょうか?
具体的には「2〜3日でレントゲン1枚」なんてスポットは福島ではざらに存在するでしょう。じゃあそういう場所の現実はどうなのかと言えば、
「いやいや妊婦さんもいますよ。」
「子供たち、元気に学校へ行っていますよ。」
と、これが現実なのです。
じゃあ、それが正しいのならば我々医師が先輩医師から学んできたことは、
「 す べ て ウ ソ っ ぱ ち 」
ということではないでしょうか?
なので、福島医大の山下、東大の中川、札医大の高田などのいう「ぜんぜんだいじょうぶ」説が正しいとするのならば、我々医師は何も心配することなく妊婦さんのレントゲン写真を毎日のようにとりまくり、子供も大人同様何を気にすることもなく下半身のレントゲン写真などもとりまくれるのです。
全国の先生方!
意識革命の時が来たのです!
今やレントゲン検査、CTスキャンなども「危険だ」などという変な先入観は捨てても大丈夫な時代が来たのです。これまでの古い概念に囚われるのはやめようではないですか!
10日間CTスキャンを撮り続けたってまだ60ミリシーベルトです。山下大先生は「100ミリシーベルトだって大丈夫」って言ってるのですからCTを1週間撮り続けたって全然平気!
気にせずやってくださいよ。
それにレントゲン検査の部屋。
あれいらないじゃない。
なんで安全なのにわざわざ隔離部屋みたいの作る必要があるんでしょうか?
たかだか100マイクロでしょう?
待合室でレントゲン撮ることにしたっていいじゃないですか。
中川大先生が大丈夫って言ってるんですから。
・・・・・。
さて、そういう意識革命を起こそうと思えば起こせる現在の状況です。「安全だ」ということがもはやまかり通ってしまっているので見方を180度変えることだってできてしまうのです。
しかし、医者は果たして「安全だ」と言ってすべてを変えるでしょうか?
僕は「それはない」、と思います。
それでも多くの医者はレントゲンを撮る時はこれまで通り妊婦・子どもに気を使うということをやめることはないでしょう。それは多くの医者がX線の「未知の危険」というものを少なからず意識しているからです。
どの医者も放射線が正確にどれくらいでどのくらいの影響を及ぼすのか分かっていないし、特に妊婦や胎児、幼児などには「絶対影響がない」などとはどうあっても言えないと誰もが内心では分かっているのです。
しかし今の世の中はどうもおかしくなってきているようです。
医者でもない人たちが特に何を考えたからではなく、「偉い人がそう言ったから」などという理由で「安全。大丈夫。」という説を丸のみして信じてしまっています。
同時に医者であっても、「絶対危険だ」と激しく警鐘を鳴らすという人もほとんどいません。それはどんなに偉い先生であってもこと放射能に関しては「本当に正しいこと」を分かっている人が皆無であり、それゆえ自信を持って「100%危険」を主張し通すことが誰ひとりできないからです。
だから唯一確かなことと言えば、
「安全だ、というのも100%と言いきれない。それは『分からない』から。」
「危険だ、というのも100%と言いきれない。それは『分からない』から。」
だから現時点で100%正しい真実はひとつだけ、
「どっちか分からない」
ということだけ
という結論にならざるを得ないでしょう。
分からないのではどうしようもないように思えますが、それでも我々が自分自身や家族の身の安全を本気で考えるなら答えは自ずから見えてくるのではないでしょうか?
「分からない」という状況で「じゃあ多分安全だろう」と考えるリスクと、
「分からない」という状況で「じゃあ多分危険だろう」と考えるリスクのどちらが結局自分や家族を守るのかと考えてみるとこれは当然後者しかないことになります。
「危険だろう」で危険でなかったら笑い話ですみますが、
「安全だろう」で安全でなかったらほぼ100%深刻なリスクをその時点で背負い込んでしまうことになりますから。
医者は人の健康・生命をまじめに考えて、守り、救うのが仕事・使命です。
他の人間がどうであっても医者だけは健康・生命のリスクに関して誰よりも真面目に考えなければならないのではないでしょうか?
そういう意味で、今回の原発事故で放射能に関して「安全サイド」に立っている医師は、リスクへの対処の姿勢という点においてまったくの「医師失格」であると言わざるを得ないでしょう。
山下氏、中川氏、高田氏などは地位・名誉が誰より高かったとしても「医師として」は一介の診療所の医師である私にも劣る情けない医師である(医師と言ってよいのかどうかも疑問だが)と断じるしかありませんね。
ひどいものです。